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- 鈴村健一 運命と戦う者 歌詞
- 鈴村健一
- もりらんまる森蘭丸
こしょうしゅうとして仕えて數か月、あの襲撃事件を境(さかい)に信長(のぶなが)の語る理想に耳を傾ける時間が増えていた。信長に対する憧れはいつしか尊敬の目に変わっていた。運命に身を委ねることを拒止、己(おのれ)の進む道のすべてを己の力で切り開こうとする。私が生きたくとも生きられなかった姿がそこにあったからだ。だが、私には分かっていた。史実通りに歴史が動くのであれば、信長の夢は葉うことはないと、なぜならば、織田家(おだけ)の中心である明智光秀(あけちみつひで)の裏切りによって、信長(のぶなが)は天下統一を目前に命を落とすことになっているからだ。いわいる、本能寺の変だ。天正十年六月中國地方の覇者毛利氏と戦っている羽柴秀吉(はしばひでよし)を支援するため、自ら出陣を決めた信長は安土城(あずちじょう)を離れって、今日にある本能寺へと入ることになる。だが、六月二日の未明、先に出陣していた明智(あけち)軍が突如本能寺へと攻めていたんだ。その時、本能寺にいたのは小姓を中心とした僅かな供回りだけであり、信長は炎(ほのお)に包まれた寺の前で自刃したと伝えられている。それが歴史の事実だった。そのことを信長に伝えるべきか否か、私は迷っていた。確かに、信長は蘭丸を信頼している。しかし、さすが未來に起こるかもしれないできことを告発して、信じてもらえる確証もない。そもそも私がこの世界に來た時點で、すべてが歴史通りに進んでいくのかさえ定かではないんだ。そんな迷いを抱えたまま年が挙げて天正十年となった。本能寺の変が起こるまで、既に半年を來ていた。早く答えを出さなくてはならない。そして、天正十年三月その決意を固めさせるできことが起こった。黒衣(こくい)の老人が再び私の前に現れたのだ。
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